リーダーにとって、自らの判断において組織を導くことは当然ですが、その組織を構成する一人一人と同じビジョンを共有し、共に困難を乗り越えようと努力する姿勢を示すことが大切です。リーダーにとって自分に意見するような人は貴重な存在といえるでしょう。闇雲にすべてに反対という人は論外ですが、リーダーにとって周囲がイエスマンばかりになるのは危険です。リーダーになると、重要な決断を不確かで限られた情報を基に下さなければならないことがあります。その際には常識や雑音には耳を貸さないよう、情報を遮断してしまうことが必要な場合もありますが、その一方で的確な批判には耳を貸さなければなりません。
単なる感情の発露である文句と、自分自身の判断にバイアスがかかっていればそれを修正するチャンスとなる意見とを、冷静に区別しなければならないのです。そして謙虚に批判を受け入れる姿勢は、周囲に好感を与えます。いくら成功体験を積み重ねてきたとしても、リーダーが自分自身の成功体験を周囲に押し付けるわけには行かないのであり、常に相手には敬意を払い、相手の能力を信じることが大切なのです。こうして相手を信じるということは、相手を育てることにつながります。周囲を見渡して一人一人の成長過程に合ったチャンスを与えるのも、重要なリーダーの役割です。
そしてリーダーは、すべてを知り尽くしているわけではありません。ともすればリーダーとして周囲から祭り上げられる過去の実績に、自分自身が囚われてしまい、挑戦する姿勢を失っても気付かないということもあります。リーダーとしての振る舞いに慣れると、過去の栄光にしがみついて、いつの間にか自分の成長が止まってしまうということは珍しくありません。状況にいつの間にか後れをとってしまえば、たちまち立ち往生してしまいます。
しかし、そこで自分自身もまた成長の一過程にあるという自覚を持って、昨日より今日、今日より明日と、倦まずたゆまず日々変化して行くことを目指さなければなりません。自分に足りない部分を謙虚に認め、それをむしろ自分の伸び代と考えて、より一層の努力を傾ける必要があるのです。また、変革期であればこそ求められる役割を精一杯演じ切るためにも、常に好奇心を持ち、変化を恐れない姿勢を保ち続けなければなりません。人の学習能力には年齢制限がありません。いくつになっても人はその意思さえあれば、成長し続けることができるのであり、終わりに到達するということがないのです。変革期に求められるリーダーとしての人物像と、その後の安定期に求められる人物像は異なります。リーダーは自分自身の気の緩みにも、常に警戒を怠ってはならないのです。